赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を知ろう
―将来、健康な肌を保つためにできること
アレルギー性の皮膚炎であるアトピー性皮膚炎。赤ちゃんのアトピーは、乳児湿疹との違いや、いつから診断できるか等、素人では判断が難しいことが多いですよね。
アトピーの治療や日常の対処・ケアについては、お子さん本人はもちろん、ママ・パパの負担も大きいので、かかりつけの医師に相談しながら進めることが必要です。
このページでは皮膚科専門医の原医師監修のもと、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎について大枠を掴んでもらうと共に、予防に繋がる保湿ケアなどをわかりやすく紹介します。
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎ってどんな肌トラブル?
かゆみのある湿疹ができ、よくなったり悪くなったり
アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis)は、 かゆみのある湿疹が、慢性的によくなったり悪くなったりを繰り返す皮膚の病気です。
乳幼児のアトピー初期段階では 頭や顔にできる湿疹から始まり、その後お腹や背中、手足に広がっていく傾向があります。 湿疹は左右対称に広がり、まず乾燥、次いで赤くなり、病気の勢いが強いとぼつぼつしたり、かゆみが強くなります。経過が長いと、 皮膚がかたくなりゴワゴワしてくることもあります。
耳の付け根がジクジクとただれて切れたようになるのは「 耳切れ」といい、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状。そのほかよくある症状として、手足首のくびれがカサカサしたり、ひざ裏が赤く腫れてカサカサしたり、お腹や背中にカサカサとしたブツブツの湿疹ができるなど、 多彩な皮膚症状が出現します。
かきむしると悪化する悪循環に
また、アトピー性皮膚炎で特につらい症状がかゆみ。赤ちゃんがかきむしることで、湿疹がさらに悪化することがあります。かゆみによって赤ちゃんの機嫌が悪い、眠れない、といったことが続くと、お世話をするママ・パパにとっても精神的な負担となることがあります。
かきこわしを予防するため、赤ちゃんの爪を常に短く・角を丸くして切っておくこと、場合によっては手にミトンをつけてあげることで対応します。
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎はいつから・どのように診断されるの?
検査の目安は2歳以降から
0歳児のアトピー性皮膚炎は、早くて生後2~3ヵ月頃から発症します。ただし、月齢が低い場合には乳児湿疹との区別がつきにくいため、いったんは乳児湿疹と診断され、対症療法で経過を見ることが多いです。2歳以降、その後の経過や検査、パッチテストなどによってアトピー性皮膚炎と診断されます。
乳児湿疹とは新生児(生後0ヵ月)~1歳頃にできる、乳児期特有のさまざまな湿疹・皮膚炎です。もともと赤ちゃんは肌荒れを起こしやすく、乳児湿疹とアトピー性皮膚炎を見分けるのはとても難しいです。
乳児湿疹は期間限定の肌トラブルのようなもので、日頃のホームケアや、肌のバリア機能が備わっていくにつれて徐々によくなっていくのに対して、アトピー性皮膚炎はよくなったり悪くなったりを繰り返しながら、症状が慢性的に続きます。
そのため、「乳児湿疹がひどい、なかなか治らない」と思っていたらアトピー性皮膚炎だった、といったケースはもちろんあります。ただ、
乳児湿疹がひどいからといって、必ずしもアトピー性皮膚炎になりやすいわけではありません。
心配なことがあれば、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
診断基準について
アトピー性皮膚炎の診断には、医療機関によって国内外のさまざまな診断基準が使われています。日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは ※1、次の3つの項目を挙げています。
- 1.かゆみがある
- 2.特徴的な皮疹と分布がみられる
- 3.慢性的に繰り返して皮疹が起こること(2歳未満の乳児で2ヶ月以上、その他年齢では6ヶ月以上)
※1 参考文献: 日本皮膚科学会ガイドライン アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018
アトピーの検査では血液検査がおこなわれます
アトピー性皮膚炎の検査には血液検査がおこなわれることがあります。アトピー性皮膚炎特有の物質の量や、特異IgE抗体検査によって、保有しているアレルゲンがアトピーとどのように関係しているかを検査することが可能です。
赤ちゃんへの血液検査の実施有無については医療機関によって方針が異なるため、詳細はかかりつけの病院で医師に相談してください。
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎は肌が弱いことも原因のひとつ
アトピー性皮膚炎はアトピー素因がもとにある
アトピー性皮膚炎は生まれつきの“アトピー素因”によるものです。アトピー素因をもった状態を基礎として、後天的に様々な刺激因子が作用して形成されます。
遺伝的な要素があるため、多くの場合、血縁関係のある家族にアレルギー性の疾患(アトピー性皮膚炎以外では、喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎など)を持つ人が多いです。
アレルゲンが侵入しやすい赤ちゃんの肌
さらに、 赤ちゃんの肌のバリア機能が弱いことも大きな要因です。赤ちゃんの皮膚は、大人よりも薄くて乾燥しやすく外部刺激に敏感。かゆみや炎症を起こしやすいことから、かきむしったり皮膚が傷つくとさらにバリア機能が低下し、ダニ・花粉・ほこり・食べ物・カビといったアレルゲンが侵入することで、アトピー性皮膚炎が発症すると考えられています。
妊娠中や母乳の影響について
また、ママが気になる妊娠中や母乳によるアトピー性皮膚炎への影響についてはどうでしょうか。
最近の研究では ※2、妊婦さんの喫煙が生まれた子どものアトピー性皮膚炎のリスクを高めることがわかっています。妊娠中の喫煙はアトピーに限らず、お腹の赤ちゃんに悪影響を与えるため控えることが必要です。
母乳については、母乳自体が原因ではなく、食物アレルギーが関係しています。例えば、卵アレルギーの赤ちゃんが、卵を食べた後のママの母乳を飲むことで、皮膚に症状が出てアトピー性皮膚炎が悪化することがあります。母乳を中断すると一時的に肌状態がよくなることはありますが、母乳は赤ちゃんにとって大切な栄養源でもあるため、断乳や離乳食におけるアレルゲンの除去は医師に相談しながら進めていく必要があります。
※2 参考文献: PRESS RELEASE 平成28年11月14日 愛媛大学 妊婦の喫煙が子のアトピー性皮膚炎のリスクを増加させる研究結果を発表
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎は治るの?
“3つの基本の治療”で時間をかけて治していきましょう
アトピー性皮膚炎は正しい治療とケアをすることが大切です。 よくなったり悪くなったりを繰り返すことが多いアトピーは、時間をかけて治していく病気です。赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の多くは、重症でなければ2~3歳頃までに大部分がよくなることが多いです。できるだけ早期から正しい治療を始めることが大切なので、医療機関で相談してください。
アトピー性皮膚炎の治療では、
(1)スキンケア、 (2)薬による治療、 (3)生活環境の整備(悪化要因を取り除くこと)
これらの3つが基本となりますが、治療の進め方は医療機関によって異なります。人によっては、長い期間アトピー性皮膚炎の治療と付き合っていくことになるため、 信頼できる医療機関を探すことも大切です。
新生児からの保湿ケアがアトピー性皮膚炎の予防に繋がる
保湿剤で肌のバリア機能をアップ
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の治療で大切なのは、肌のバリア機能を回復させること。そのために大事なのが、赤ちゃんの肌を清潔にし、保湿剤で潤いのある状態を保つことです。1日に一度はお風呂(シャワー)に入れて、ベビーソープ(石鹸)で汗や皮脂を洗い流し、顔と全身を保湿しましょう。
保湿剤には、乾燥などで失われた肌の水分を補いながら逃さないよう膜をつくってくれる役割があります。保湿ケアでバリア機能が保たれると、皮膚にアレルゲンが入り込むのを防ぐ効果も期待できます。
また、2014年の研究では ※3、新生児期から保湿剤を塗布することで、将来のアトピー性皮膚炎の発症リスクを抑えられることがわかっています。将来のつるつる肌を守ってあげるためにも、 できるだけ生後すぐからの保湿ケアを始めることをおすすめします。
※3 参考文献: 世界初・アレルギー疾患の発症予防法を発見 | 国立成育医療研究センター
こまめな保湿がポイント
お風呂上がりは急速に水分が失われ、肌が最も乾燥しやすいタイミングです。5分以内を目安にできるだけ早く保湿することを心掛けましょう。
また、保湿は1日に何度しても構いません。朝、外出前、外から帰ったとき、エアコンの乾燥が気になるとき、食事後に口周りを拭いたとき、汗を拭いた後など、こまめに保湿することが大切です。
保湿剤はベビー専用アイテムを
保湿剤は赤ちゃん用の低刺激なものを使ってください。保湿剤にはローションやワセリンなどさまざまなタイプがありますが、水分と油分がバランスよく配合された乳液(ミルク)タイプ、またはやわらかいクリームタイプが塗りやすいです。また、その時の肌の状態で、テクスチャーを変えるとよいでしょう。
赤ちゃんの保湿剤は病院でも処方してもらえるほか、市販アイテムも多く販売されているので、使いやすく赤ちゃんの肌に合うものを使いましょう。
また、洗顔やボディソープ(石鹸)も、洗浄力や脱脂力の強すぎないベビー用がおすすめ。ベビーソープ(石鹸)は、1本で頭からからだまで全身を洗えるものがほとんどなので便利です。
ステロイド外用薬は医師の指示どおりに使いましょう
自己判断で薬をやめると、すぐに湿疹が再発することも
病院では、湿疹の炎症を抑えるためにステロイド外用薬(塗り薬)が処方されることがあります。ステロイド外用薬の副作用を怖がるママも多いですが、医師は症状の程度や部位をみながら適切な薬を処方します。自己判断で使わなかったり、量や回数を変えたりするのはやめましょう。炎症をしっかり抑えてあげるためにも、指示された用量・用法を守って使うことが大切です。そして必ず再診に行き、今後の方針を確認しましょう。
▼ 赤ちゃんのアトピー性皮膚炎で処方されるステロイド外用薬(例)
ステロイドの強さ | 主な薬 |
---|---|
弱い(Mild) | キンダベード軟膏、ロコイド など |
強い(Strong) | フルコート、リンデロンV など |
ステロイド外用薬で治療を始めると、比較的早く見た目がきれいになります。しかし、そのまま塗るのをやめてしまうとすぐに湿疹が再発してしまうことがあります。指示された外用回数や塗り方、外用期間はきちんと守りましょう。
症状が治まると、非ステロイド外用薬や保湿剤に切り替え、炎症のない状態を維持できるよう経過をみることが多いです。
かゆみ止めは肌を回復させ、赤ちゃんの生活の質をよくします
症状によっては、外用薬と併せて、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬といったかゆみ止めの内服薬(飲み薬)が処方されることがあります。かゆみを抑えてあげることで、かきこわしを防いで肌の回復を早める、赤ちゃんが掻かずによく寝られる、といったことも期待できます。内服薬についても、心配なことがあれば医師に確認しましょう。
アトピー性皮膚炎の悪化要因を取り除き、赤ちゃんに優しい環境づくり
こまめに掃除し清潔を保ちましょう
最後に、アトピー性皮膚炎の悪化を防ぐための、身の回りの環境整備についてご紹介します。
アトピー性皮膚炎を悪化させる要因はひとつとは限らず、いくつもの要因が影響していることが多いです。赤ちゃんの生活環境から、これら悪化要因を排除することも、アトピー性皮膚炎を治療していくうえで大切です。
ハウスダストはこまめに掃除機をかけて部屋を清潔に保ちます。空気清浄機を活用するのもよいでしょう。
▼ アトピー性皮膚炎を悪化させるハウスダスト(例)
赤ちゃんの肌に触れるものは清潔で優しいものを
また、赤ちゃんの肌に直接触れる寝具や衣類はこまめに取り替えて、常に清潔にするのはもちろん、できるだけ優しい素材 で作られたものを選びましょう。肌触りがよく汗を吸水しやすい、オーガニックコットン素材などがおすすめです。
アトピー性皮膚炎の治療はママ・パパにとっては大変なことも多いですが、赤ちゃんが将来つるつる肌を維持できるよう、 医師と相談しながら、日々のケア・治療をしていきましょう。