乳児湿疹の予防と治療 ―赤ちゃんの肌トラブルはスキンケアで予防できます―

多くの赤ちゃんが経験する乳児湿疹。くり返すニキビ、ジュクジュクした頭皮のかさぶた、かゆそうな赤いほっぺを見て「かわいそう!」と心配になるママ・パパは多いのではないでしょうか。
まだ発達段階の赤ちゃんの肌は大人に比べてデリケート。
乳児期特有の肌トラブルが起こることは少なくありません。今回は、皮膚科専門医の原医師の監修のもと乳児湿疹のケアと治療法について紹介します。
乳児湿疹とは?

乳児湿疹(にゅうじしっしん)とは、生後間もなくから1・2歳頃までにできる湿疹や皮膚炎の総称です。
代表的な症状に、新生児ざ瘡(新生児ニキビ)、乳児脂漏性湿疹、皮脂欠乏性湿疹(乾燥性湿疹)、接触性皮膚炎(おむつかぶれ・よだれかぶれ)などがありますが、乳児期の皮膚トラブルは区別するのが難しく、治療法も似ているため、これらをまとめて広い意味で乳児湿疹と呼ばれています。

乳児湿疹がいわば乳児期の期間限定の肌トラブルであるのに対して、アトピー性皮膚炎はかゆみがある湿疹が2歳未満で2ヵ月以上、その他で6ヵ月以上慢性的に続く病気です。乳児湿疹との見分けは難しいですが、皮疹の分布や性状、経過、家族歴、血液検査を参考にし診断することが多いです。
生まれつきアトピー素因をもつ人に発症しますが、新生児期から保湿剤を塗ることでアトピー性皮膚炎の発症リスクを抑えられることがわかっていますので※、赤ちゃんからのスキンケアをぜひ心掛けてください。(原先生)
乳児湿疹の原因
生まれたばかりの赤ちゃんは、ママから受け継いだホルモンの影響で、皮脂が過剰に分泌されることによる湿疹ができやすく、一方で生後2・3ヵ月を過ぎると、今度は急激に肌が乾燥することで湿疹ができやすくなります。
また、赤ちゃんの角質層は大人の1/2程度の厚さしかないため、潤いを保持することができず、外部刺激によるダメージをより受けてしまうのです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、ママから受け継いだホルモンの影響によって皮脂分泌が過剰で湿疹ができやすく、一方で生後2・3ヵ月を過ぎると、今度は急激に肌が乾燥することで肌トラブルが起きやすくなります。
また、皮膚は表皮の角質層と皮脂膜の2つがバリア機能を維持しており、これは大人も赤ちゃんも同じですが、赤ちゃんの角質層は大人の1/2程度の厚さしかないため、外部刺激によるダメージをより受けてしまうのです。


乳児湿疹はいつから・いつまで続くのか
乳児湿疹は早くて生後1~2週間後からみられ、そこからできたり治ったりと頻繁にくり返すことも多いですが、成長と共に肌の機能が備わっていくにつれて、1歳頃には自然と落ち着いてくることがほとんどです。
適切なスキンケアを続けているにもかかわらず幼児以降にも症状が継続する場合は、アトピー性皮膚炎へ移行している可能性も考えられます。気になる症状があれば病院で相談しましょう。
ママの食事や離乳食の内容によって、乳児湿疹がひどくなることはありません。
一方で、適切な治療をしても乳児湿疹が改善しないとき、食物(母乳や粉ミルク、離乳食など)が湿疹の悪化に関係していると考えられる場合は、食物アレルギーを起こしている可能性があります。食物の除去といった制限については医師によく相談しましょう。
また乳児湿疹やアトピー性皮膚炎は、食物アレルギーになるリスクとも深く関わっているため、湿疹を改善しスキンケアをすることは食物アレルギーを防ぐうえでも大切です。(原先生)
乳児湿疹で病院を受診する目安について
乳児湿疹での受診は必須ではなく、軽い症状であれば、適切なスキンケアによって通常2~3週間でよくなります。くり返すこともしばしばですので、まずは慌てずホームケアで様子をみて構いません。肌を清潔にすることと、保湿を心掛けましょう。
ケアを続けても治らないとき、かゆみがひどいとき、炎症が起きてただれているとき、膿んでジクジクするとき、湿疹によって赤ちゃんの機嫌が悪いときなどは、悪化が進む前に、かかりつけの小児科や皮膚科を受診してください。医師には、「いつから」「どの部分に」「どんな症状が出ているか」を具体的に伝えましょう。
乳児湿疹で処方される薬
乳児湿疹ができても、医師の診断なしに手もとにある薬は使わないようにしましょう。
一般的に病院では、プロペト(ワセリンを精製したもの)やヒルドイドソフト軟膏といった保湿剤、さらに症状に応じて、ロコイド軟膏やメサデルム軟膏などのステロイド外用薬が処方されることがあります。
赤ちゃんに処方されるステロイドは作用の弱いものなので過度に心配する必要はありません。医師の指示どおりに使って、まずは早くしっかりと炎症を抑えてあげることが大切です。
ケアの手順は、保湿剤を塗った後にステロイド外用薬を適切に塗ってあげましょう。
乳児湿疹の代表的な症状
- 新生児ざ瘡(新生児ニキビ)
-
どんな症状
生後2週間頃から生後1ヵ月をピークに、赤ちゃんのほっぺ、おでこにできるニキビのようなブツブツ。赤くなったり、膿をもつ湿疹ができることもあります。かゆみや痛みはありません。
原因ママのホルモンの影響を受けて、新生児期に皮脂が過剰に分泌されることが原因です。赤ちゃんの毛穴は未発達のため詰まりやすくなっており、たくさん分泌された皮脂が毛穴に詰まり、細菌が感染することで湿疹ができます。
治療とケア清潔にすることが一番のポイント。入浴時はベビーソープの泡で皮脂汚れを丁寧に洗い流しましょう。
清潔を心掛けていれば、ホームケアでよくなることがほとんどですが、ひどく膿んだり、炎症が広がるときは病院へ。症状にあった軟膏が処方されます。
- 乳児脂漏性湿疹
-
どんな症状
生後すぐから生後2・3ヵ月に多く見られる湿疹。皮脂腺の多い頭皮、おでこ、まゆげの生え際、鼻、首、脇の下などに黄色い皮脂のかたまりやかさぶたのような痂皮(かひ)ができます。通常かゆみや痛みはありませんが、症状が悪化するとかゆみが生じることもあります。
原因ママのホルモンの影響を受けて、過剰に分泌された皮脂が毛穴に詰まり湿疹ができます。常在真菌の「マラセチア」が湿疹を悪化させる要因だとも考えられています。
治療とケア皮脂汚れをベビーソープの泡でしっかり洗い、丁寧に流すことが大切です。かさぶたは無理に剥がさず、入浴前にワセリンやオリーブ油を塗り、しばらく置いてふやかしてから入浴します。
ホームケアだけではなかなか改善しなかったり、症状を繰り返す赤ちゃんも多いです。心配な場合は、皮膚科に受診し外用剤を塗布しましょう。
- 皮脂欠乏性湿疹(乾燥性湿疹)
-
どんな症状
いわゆる乾燥肌が悪化して湿疹ができてしまう症状です。顔や全身に症状ができますが、特にほっぺ、口周り、お腹、背中、手足のくびれは乾燥しやすく湿疹ができやすい部分です。赤いブツブツができたり、手足のくびれは切れてしまうこともあります。
初めのうちは肌がカサカサし、かゆみが生じる程度ですが、赤ちゃん自身が搔き壊してしまい悪化してしまうこともあります。原因新生児期から一転し、生後2・3ヵ月ぐらいから思春期を迎えるまでは皮脂が少ない状態が続きます。表皮の水分が蒸発し、肌のバリア機能が損なわれると、肌の保水力が弱くなりさらに水分が失われる悪循環に。外的刺激により敏感になり、少しの刺激でも炎症を起こしてしまうようになります。
治療とケア1日に複数回、朝やお出かけ前後、汗を拭いた後、乾燥が気になるときなどに、ベビー用の保湿剤を全身に塗ってあげましょう。入浴後は乾燥が進むため、お風呂上がり5分以内に保湿するのがポイントです。全身の保湿には伸びのよいローションタイプを、より乾燥しやすい部位にはより保湿力の高いクリームやワセリンのポイント使いがおすすめ。
病院でもワセリンやローションなどの保湿剤を処方してもらえるほか、状態によっては非ステロイド軟膏やステロイド軟膏が処方されます。
赤ちゃんがかゆみで掻き壊さないように、爪は常に短く、角は丸く切っておきましょう。
- 接触性皮膚炎
-
どんな症状
原因となる物質に触れた部分だけに、かゆみのある湿疹が出ます。赤ちゃんに多いおむつかぶれ、よだれかぶれ、食べこぼしによる口周りの肌荒れなども接触性皮膚炎の一種です。赤いポツポツができたり、水疱ができたり、ひどいと真っ赤にただれてヒリヒリとした痛みが生じます。
原因うんちやおしっこ、よだれ、汗、果汁、化粧品など、皮膚に触れたものの刺激によって炎症が起こります。特に下痢は肌への刺激が強く、おむつかぶれが悪化しやすいので注意が必要です。
治療とケア患部の清潔をできるだけ保つことが大切です。よだれや汗はこまめに拭くようにし、おむつは排せつの度に取り替えます。特にうんちのときはシャワーで都度洗い流すようにしましょう。
炎症やただれがひどいときは病院へ。症状が軽度の場合はプロペトや亜鉛華単軟膏が、炎症が強いとステロイド外用薬が処方されることもあります。
赤ちゃんの肌に触れる寝具やタオル、衣類は清潔を保ち、オーガニックコットン素材などできるだけ肌にやさしい素材のものを選びましょう。
乳児湿疹を予防・ケアする赤ちゃんのスキンケア
① 毎日、肌の状態をチェックしましょう
着替えの際や入浴時など、赤ちゃんの肌に乳児湿疹ができていないか、日頃からよく観察するようにしましょう。
赤ちゃんはかゆい・痛いなどの症状を自分でうまく伝えることができません。「ここが少し赤くなっているな」「ブツブツができてきたな」といった風に、早期に異変を見つけてあげることで、軽度な湿疹であればホームケアで治すことも可能です。

② 刺激となる汚れはお風呂でしっかり洗い流しましょう
皮脂や汗、おしりまわりの排せつ物の汚れは赤ちゃんの肌に刺激となるため、すっきり洗い流しましょう。
乳児湿疹には沐浴剤ではなく、すっきりと洗い流せる全身用ベビーソープを、さらに泡で出るタイプがおすすめです。
顔の洗浄はつい遠慮がちになってしまいますが、皮脂腺が多く湿疹がでやすい部分なので、しっかり洗いましょう。頭皮や耳の後ろ、首周りや手足くびれは特に汚れが溜まりやすい部分なので入念に
すすぎはシャワーの温度や水圧を弱めに調整したら、顔にもかけてしまって大丈夫。羊水の中にいた赤ちゃんは水がかかってもびっくりしません。
おむつかぶれができているときは、少し大変ですが、排せつの度におしりを洗い流すようにすると効果的です。また、汗をかく季節は夜だけでなくお昼にも一度シャワーで洗い流してあげるとよいでしょう。
-
\ 顔・体の洗い方Point /
- 泡タイプのベビーソープがおすすめ。泡切れがよいものを選ぶ。
- 手で泡をころがすようにやさしく洗う。
- 頭皮・顔は皮脂が多いのでしっかり洗う。
- 皮膚がくっついているくびれ部分は汚れが溜まりやすいので伸ばして洗う。
- すすぎ残しのないよう弱めのシャワーで洗い流す
- お風呂の温度は潤いを奪い過ぎない38~39℃にする。


③ 新生児からの保湿ケアを習慣に

保湿は肌のバリア機能を高め、アトピー性皮膚炎やアレルギーを予防する効果が期待できます。季節を問わず1年を通して大切なので、毎日の保湿ケアを習慣にするようにしましょう。
お風呂上がりは特に肌の水分が蒸発しやすいので、5分以内を目安に保湿します。顔だけでなく、全身もマッサージをするようにやさしく伸ばしながら塗ります。
肌がテカテカに見えるぐらい、ティッシュが肌につくまで、しっかり保湿します。
1日に何回保湿してもよいので、お出かけ前後やおむつ替えのとき、汗を拭いたあと、よだれや食べこぼしを拭いた後にも保湿しましょう。
-
\ 保湿剤の塗り方Point /
- お風呂上がりは5分以内に保湿。
- お出かけ前後、おむつ替えのとき、汗やよだれ・食べこぼしを拭いた後も保湿。
- ティッシュが肌につくくらい、肌がテカテカになるまで塗る。
- 頭皮は髪の毛をかきわけて指の腹で塗る。
- 顔・全身の保湿はローション(乳液)タイプの保湿剤が使いやすい。
- 部分ケアにクリームやワセリンと併用する。
特に首のしわ、わきの下、ひじ・ひざ裏、足の付け根などの間接部位もしわを伸ばしてぬかりなく塗るのがポイント。耳回りやカサカサしやすい口周りやほっぺも忘れずに。
